太乙救苦天尊(たいいつきゅうくてんそん)は、道教の神格で、苦難からの救済と地獄の亡魂を救う慈悲の神として信仰される。正式神号を東極妙厳青華大帝(とうごくみょうごんせいかたいてい)といい、六御の一柱に列される。仏教の地蔵菩薩と習合される救済神的性格を持つ。
概要
六御の高位神として昊天至尊玉皇上帝の慈悲的側面を体現し、主に『太上洞淵神呪経』『太乙救苦護身妙経』などの道教経典に説かれる。地獄解脱の儀礼「煉度儀」において中核的な役割を果たす。
信仰
神格的特徴
- 十方世界を照らす「九色蓮華」を神座とする
- 地獄の十殿を巡り亡者を救済(「三途川」の概念と関連)
- 動物霊の救済を通じ畜生道解脱を司る
- 頭部に九陽巾を戴き、九頭獅子に騎乗する
祭祀文化
中元節(旧暦7月15日)に祭祀が集中し、斎醮(道教儀礼)では霊宝派が重要視する。台湾や香港では盂蘭盆会と習合した「青玄醮」が行われる。日本では陰陽道の影響で泰山府君祭との関連が指摘される。
道教体系における位置付け
※「六御」は三清に次ぐ道教最高神群。神霄派では「長生大帝」の称が用いられるが、日本では「南極老人」の名で寿老人信仰と習合。
図像学的特徴
- 神容:青年帝王形と老君形の二系統が存在
- 持物:甘露瓶(苦痛洗浄)・蓮華(清浄象徴)・仙杖(冥界開扉)
- 坐騎:九頭獅子(「九霊元聖」の称号あり)
- 光背:九色円光(九つの慈悲を表現)
脚注
参考文献
- 野口鉄郎 監修『道教大辞典』雄山閣出版、1994年。
- 窪徳忠『道教の神々』講談社〈講談社学術文庫〉、1996年7月。ISBN 4-06-159239-4。
- 三浦國雄『道教と天文歴算』汲古書院、2012年。
- 道教文化研究会 編『神霄道教の研究』文理閣、2015年。
- 『東アジアの死生観』岩波書店、2002年。
- 山田利明『道教儀礼と東アジア文化』勉誠出版、2018年。
関連項目
- 東岳大帝 - 冥界の最高神。
- 閻魔 - 仏教やヒンドゥー教などでの地獄、冥界の主。
- 酆都大帝 - 道教における冥界の最高神格の一尊。
外部リンク
- 中華道教総会(台湾)
- 太乙救苦天尊の解説 - ウェイバックマシン(2020年12月1日アーカイブ分)
- 東洋文庫道教研究データベース




